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ヤドカリン、よかったよね

劇団超人予備校の本公演「ヤドカリン」上演の3日間と配信期間の2週間が過ぎて、いろいろと思うことがあるのでそれを書いてみようと思います。


「こんなこと、ただの偶然やで」って思うかもしれませんが、お芝居の中で起こっていることと現実との境界が曖昧になっていた感じがあります。そう、お芝居の中のように。

主役のふなっしーさんこと友井田さん、ヤドカリ役で引っ込み思案な感じが世間の(というか関西小劇場好きな)女子をざわつかせましたね。関西小劇場界で今、一番人気のある役者じゃないでしょうか。

そんな友井田さんが、なぜか単身赴任で三重に行くことになって本番の1週間前に引っ越しをしていたということです。それも単身赴任。これって、劇中に似たようなシーンがありましたよね?

友井田さんは赴任地でヤドカリをフィーチャーした広告や、たまたま観ていたテレビでヤドカリのネタを見たそうです。

大変でしょうけど頑張ってください。三重だったら名古屋周辺のお芝居に出ることができるかもしれませんし、この事がまわりまわっていい方向にいくような気がするのですよね。友井田さんの最近の目標、NHK朝ドラに出演って案外遠くないかもよ。


あと、僕にとっては、初めての劇伴、お芝居の音楽をやらせていただきました。初めからそれを求められていたわけではなかったのですが、成り行き上そうなりました。劇中では、だいたいウクレレの音が鳴っています。こんなにうれしいことってないです。


さて、「ヤドカリン」の内容ですが、僕らは先にこの物語の原型を読むことができていました。ミツルギさんがnoteで書いていた童話です。「ステイホーム忠太郎」「なま子」「カリン姫」の3つの物語です。今回のお芝居の原型は既にここにあります。それを絶妙な割合で1つのお芝居にしたところが今回の見どころでしたね。


「ステイホーム忠太郎」の内容を中心にして、孤独を自由と取り違えている(これも普通には見られない設定かも)なま子の物語、アルコール王国に行こうとして難破して海の底に沈んでるカリン姫を別の物語として置いている。


ヤドカリの忠太郎は自分の殻の中に閉じこもる日々だけれど、美しいイソギンチャクと出会い旅をすることになる。

ナマコのなま子は、他の海の動物をこき下ろして楽しんでいたが、目の前でイワシが別の魚に食べられたことや、ウミガメとの会話で自分の行動を修正していく。最後はウニと出会って、悲しい歌をうたってすごす。

ここが泣けるのですよ。ここの音楽を初めは「ゴッドファーザー」のメロディにしたいということだったので、このメロディの長調バージョンを最後に聴かせてこのシーンの救いにしたい、と思ったのですが、土壇場で「禁じられた遊び」に変更となりました。そうすると、長調のところはあるのですが最後は短調に戻るのです。「うーん」と考え込みましたが、最終的には救いをもたらす音付けはしなくて、短調のまま使われました。もっというとコードで長短の味付けはしないで単音だけとなりました。ここは音響の大西さんの選択でいい方に導かれましたね。音楽でわざわざ救いをもたらしたりしていないところがよかったと思います。ここは放り出しといて、お客さんがそれぞれで決めるところなのです。こういうところ、勉強になりましたね。


このお芝居で絶対に避けて通ることができないのが、森世さんの「魚」と、本多真里さんの「カリン姫」です。

超人予備校に絶対に必要なのが森世さんの不条理会話です。もう出てきただけで笑いが起こる、田口さんや殿村さんの域に達しているのではないでしょうか。

本多さんの「カリン姫」はダジャレを言ったあとの驚異的に長い「間」で、爆笑を取るわけではないですが、ほぼ全員のクスクス笑いを引き出していました。こんな面白い俳優がいる関西小劇場、いいでしょう?

あ、ジョニー・デップ松田優作役の萬谷さんも忘れてはいけません。強烈な役どころでした。あとでウニ役で泣かされることになるのですが。 主役とヒロインの2人が安定していたら、脇の強烈さが生きるってほんとうですね。


ヤドカリの忠太郎は、現実世界では人間の梨田くん。引きこもり体質でいろいろな障害を怖がっていますが、最後にイソギンチャクの「ヒカリ」が、ずっと旅を続けるように促し、現実世界の梨田くんを、ほんとうの「光」となって照らす。梨田くんは一歩前に踏み出す。というエンディングです。もう、たまりませんね。


魔人ハンターミツルギはどうしてこんないい本を書けるのか。

これは、コロナの最中の今しかわからないかもしれませんが、奥にあるテーマは人間いや生物の本質的なものだからなのかもしれません。

この本を役者のみんなが自分でどうしたら面白くなるかを考えて、それを照明や音響、美術、衣装のスタッフが盛り上げて、こんなに全部が一体となったお芝居を知りません。

ダンスの振付をやった人もいます。初めと終わりのダンスでも泣きそうになりました。この幸せな振付は受付でも踊られていましたね。

その受付の人達もお客さんを楽しませるためにいろんな仕掛けを考えていました。客席を半分にしていたので、キャンセルが出たらそこを埋めていく作業が大変だったにもかかわらず、です。すごいなあ。

また、今回はネット配信もあったので、ビデオ配信にかかわった人達には本当にいろいろ苦労があったでしょう。

また、こまごまとした雑用仕事も多くあって、それをいちいち気づいて片付けてくれていた人達にも感謝します。

このコロナの中で消毒や検温など全体の面倒を見ていただいた舞台監督は本当に優秀な人でしょう。


終演から2週間経ちましたが、コロナ感染者が出たとは聞いていません。まあ、ホッとしています。

今回は、制作、大変だったでしょうね。素晴らしい舞台の裏には素晴らしいスタッフがいるのです。最後に拍手を送りたいと思います。ありがとうございました。


こんなお芝居にかかわらせていただいて、本当に幸せです。



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